【偽書】雪華残像(9G) 37
「あの暗い場所で歩く人物もそれを見分ける桃恵もどちらも大したものだよ」
「素直に教えを乞うたなら、桃恵の目と同じくらいになれる極意を記した本を差し上げるわよ。一冊五千円(税別)で」
「有料かよ」
「まあ、桃恵らしいね。タダでくれる方が怖いや。後で何かありそうで」
「流石亨留(みちる)。言えてるかも」
詩織はなるほどと言った顔をする。
「何よ詩織んたら。たまには桃恵だって無料奉仕くらいあるわよん。そう簡単にはしないけれどん」
「イケメン限定だね」
「イケメン兼お金持ちよん」
「打算丸出しだな〜」
「ん。悪い?」
「ご自由に…」
詩織は呆れて再び窓の外を見る。
「こんな嵐の夜に灯りも無く歩き回るなんて」
「暗闇に目が慣れたら案外何とかなるものだよ」
「亨留(みちる)は歩ける?」
「雨に濡れるから遠慮したいね」
「それが普通だよね」
「つまり、その人物は現在普通では無い何かの事情がある、って事だろうね」
「なる程。それが何かだね」
「桃恵ならお金持ちのイケメンなら例え嵐の中でも…」
「水嫌いの癖によく言うよ。夏の水泳授業全部サボった癖に」
「雨水では溺れないからダイジョウブ〜」
「例え海の中に美少女の人魚が居ても、無理やり釣り上げそうだな」
「高く売れるならやるやる〜」
「そこ?」
「いくら美少女でも人間以外は売れてナンボでショ」
「桃恵の前では魑魅魍魎も逃げ出しそうだね」
亨留(みちる)が笑う。
「ふう。やっとシャワーも終わったし、明日も早いからお休み〜…あれ?幸は寝ないの?」
「杏ちゃんが寝たら寝ます」
「一緒に寝ようよ〜」
「私が先に寝たら怒る癖に。一人じゃあ怖いから…って」
「呆れた。もしかして毎日そうなの?」
私の問いに、杏と幸はこちらを向いて一緒に頷く。
杏は当然という顔をして、幸はウンザリとした顔をして。
「真夜中にバイクで暴走してるのは平気で、一人では寝られないなんて変よ、杏ちゃんは」
「別にバイクで暴走してないし。ちゃんとわきまえてバイクの最高速度の八割でしかスピード出してないよ」
「そこ?」
十分速度超過じゃない。
「それにバイクは見えていても寝たら見えないじゃないか」
「当たり前でしょ。バイクは前が見えなければ事故になるをだし」
私は当たり前だと杏に突っ込む。
「いっそ一生バイクで走り続けていればどう?」
案外幸は毒舌だわね。
「幸って残酷だな」
【偽書】雪華残像(9G) 36
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